かたく、また他の部分は気化した色素のように透明で消えうせそうだ。夕方に近づくにつれて、やや煙り始めた空気の中に、声も立てずに粛然とそびえているその姿には、くんでもくんでも尽きない平明な神秘が宿っている。見ると山の八合目と覚しい空高く、小さな黒い点が静かに動いて輪を描いている。それは一羽の大鷲《おおわし》に違いない。目を定めてよく見ると、長く伸ばした両の翼を微塵《みじん》も動かさずに、からだ全体をやや斜めにして、大きな水の渦《うず》に乗った枯れ葉のように、その鷲は静かに伸びやかに輪を造っている。山が物言わんばかりに生きてると見える君の目には、この生物はかえって死物のように思いなされる。ましてや平原のところどころに散在する百姓家などは、山が人に与える生命の感じにくらべれば、惨《みじ》めな幾個かの無機物に過ぎない。
昼は真冬からは著しく延びてはいるけれども、もう夕暮れの色はどんどん催して来た。それとともに肌身《はだみ》に寒さも加わって来た。落日にいろどられて光を呼吸するように見えた雲も、煙のような白と淡藍《うすあい》との陰日向を見せて、雲とともに大空の半分を領していた山も、見る見る寒い色に
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