をなでさすかと思うと、翼を返して高く舞い上がり、ややしばらく風に逆らってじっとこたえてから、思い直したように打ち連れて、小気味よく風に流されて行く。その白い羽根がある瞬間には明るく、ある瞬間には暗く見えだすと、長い北国の夜もようやく明け離れて行こうとするのだ。夜の闇《やみ》は暗く濃く沖のほうに追いつめられて、東の空には黎明《れいめい》の新しい光が雲を破り始める。物すさまじい朝焼けだ。あやまって海に落ち込んだ悪魔が、肉付きのいい右の肩だけを波の上に現わしている、その肩のような雷電峠の絶巓《ぜってん》をなでたりたたいたりして叢立《むらだ》ち急ぐ嵐雲《あらしぐも》は、炉に投げ入れられた紫のような光に燃えて、山ふところの雪までも透明な藤色《ふじいろ》に染めてしまう。それにしても明け方のこの暖かい光の色に比べて、なんという寒い空の風だ。長い夜のために冷え切った地球は、今そのいちばん冷たい呼吸を呼吸しているのだ。
 私は君を忘れてはならない。もう港を出離れて木の葉のように小さくなった船の中で、君は配縄《はいなわ》の用意をしながら、恐ろしいまでに荘厳《そうごん》なこの日の序幕をながめているのだ。君の
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