さお》が水の中に幾本も突き込まれる。船はやむを得ずまた立ち直って沖を目ざす。
 この出船の時の人々の気組み働きは、だれにでも激烈なアレッグロで終わる音楽の一片を思い起こさすだろう。がやがやと騒ぐ聴衆のような雲や波の擾乱《じょうらん》の中から、漁夫たちの鈍いLargo pianissimoとも言うべき運動が起こって、それが始めのうちは周囲の騒音の中に消されているけれども、だんだんとその運動は熱情的となり力づいて行って、霊を得たように、漁夫の乗り込んだ舟が波を切り波を切り、だんだんと早くなる一定のテンポを取って沖に乗り出して行くさまは、力強い楽手の手で思い存分大胆にかなでられるAllegro Moltoを思い出させずにはおかぬだろう。すべてのものの緊張したそこには、いつでも音楽が生まれるものと見える。
 船はもう一個の敏活な生き物だ。船べりからは百足虫《むかで》のように艪《ろ》の足を出し、艫《とも》からは鯨のように舵《かじ》の尾を出して、あの物悲しい北国特有な漁夫のかけ声に励まされながら、まっ暗に襲いかかる波のしぶき[#「しぶき」に傍点]をしのぎ分けて、沖へ沖へと岸を遠ざかって行く。海岸に
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