が何んの足しになるかさ。東京に行ってひとつ俺は暴《あば》れ放題に暴れるだ。何をやったっても人間一生だ。手ごたえのある処にいって暴れてみないじゃ腹の虫が承知しないからな。けれどもだ。ペンタゴンなんか相手にしていたんじゃなあ……柿江なんぞも、田舎新聞にひとりよがりな投書ぐらい載せてもらって得意になっていないで、ちっと眼を高所大所に向けてみろ。……何んといってもそこに行くと星野は話せるよ」
 ガンベは実際どこかに堅実なところがあって、それが言葉になるとうっかり矢面には立てなかった。今の言葉にも西山はちょっとたじろいたので、いっそう心の奥のありさまそのままを誰を相手ともなくいい放った。それはかえって彼の心をすがすがしくした。そして演壇に立って以来鎮まらずにいる熱い血液が、またもや音を立てて皮膚の下を力強く流れるのを感じた。
 西山は奇行の多い一人の暴れ者として教師からも同窓からも取り扱われ、勉強はするが、さして独創的なところのない青年として見られているのを知っていた。彼は何んとなくその中に軽侮《けいぶ》を投げられているような気がして、その裏書を否定するような言動をことさらに試みていたのだが、今
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