とするような気禀《きひん》、いくらか東洋風な志士らしい面影《おもかげ》、おぬいさんをはるかの下に見おろして、しかも偽《いつわ》らない親切心で物をいう先生らしい態度が、蒼古《そうこ》とでも評したいほど枯れた文字の背《うし》ろに燃えていると園は思った。
 同時に園の心はまた思いも寄らぬ方に動いていた。それはある発見らしくみえた。星野とおぬいさんとの間柄は園が考えていたようではないらしい。おぬいさんは平気で園の前でこの手紙を開封した。そしてその内容は今彼がみずから読んだとおりだ。もし以前におぬいさんに送った星野の手紙がもっと違った内容を持っていたとすれば、おぬいさんがこの手紙を開封する時、ああまで園の存在に無頓着《むとんちゃく》でいられるだろうか。
 園はまたくだらぬことにこだわっていると思ったが、心の奥で、自分すら気づかぬような心の奥で、ある喜びがかすかに動くのをどうすることもできなかった。それは何んという暖かい喜びだったろう。その喜びに対する微笑《ほほえ》ましい気持が顔へまで波及《はきゅう》するかと思われた。園は愚《おろ》かなはにかみを覚えた。
 園は自分の前にしとやかに坐っているおぬい
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