しておぬいさんが小刻みに駈けるようにして母の後ろまで来ると、その蔭に倚《よ》りそって坐るが早いか頭を下げた。園も黙って帽子を取った。その時見えた小母さんの眼には涙がいっぱいたまっていた。
 園は格子戸を立ててから、未練だとは思いながらもちらっとおぬいさんを見た。おぬいさんは、畳についた両手をしゃんと延ばして寄せ合わせて、肩さえいつもより細々と見えるのに、襟足がのぞかれるまで顔を重く伏せていた。眼上のものに心から詫び入る姿のように。かと思うと死ぬほどの口惜しさをじっと堪らえる形のように。園にはもどかしいほどに、そのいずれであるかがどうしても分らなかった。
 園は歩きながら、我にもなくややともすると、熱い涙が眼に迫るのを感じた。そして振り払うように眼を瞑《つむ》って、雪になるらしく曇った夜の空に、幾度も顔を仰向けねばならなかった。
 思いもかけぬ重い苦痛と疑惑とが、若い心を老いしめると思うほどに押し寄せてきた。彼は自分の腑甲斐《ふがい》なさに呆れるほどだった。市街のここかしこに立つ老いた楡《にれ》の樹を見るごとに、彼はそれによって自分の心を励まそうとした。……科学のために一身を献《ささ》げ
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