できなかった。渡瀬が酔ったまぎれに「おぬいさんに惚れろ」といい続けた時、園はそういう問題を取り上げる気持は少しもなかったが、その後四五日経ってから、どうした機会だったか、園はふとおぬいさんに対する自分の心持を徹底的に決めておかなければならぬという強い要求を感じ始めた。そのために昼は研究ができず、夜は眠ることのできない三日四日が続いたが、それには何らの焦燥も苦悩も伴《ともな》いはしなかった。彼はただ神聖な存在の前に引きだされたような気分で、何事をも偽ることなく心をこめて考えた。そして最後に彼はおぬいさんにこの上なく深い愛と親しみとを持っていることをはっきり見出だした。そうなることが園にとってはきわめて自然ないいことだった。この発見は園の心をかつて覚えのない暖かさと快さとに誘いこんだ。ふとその時星野のことを思い浮べてみた。しかしこれはもう園にとっていささかの暗らい影にもなってはいなかった。すべての良心においてこの上なく深く、この上なく暖かくおぬいさんを愛している、そのすがすがしい満足に障《さわ》りとなるものは一つもなかった。おぬいさんが園を愛していない、その疑いすらも気にはならなかった。実
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