ているのだ。読んでゆくうちにおぬいの心は幾度となく悲しさと悩ましさとのために戦《おのの》いた。あるところでは言葉が震え、あるところでは涙が溢れでようとしたけれども、おぬいは露ほどもそれを渡瀬さんに気取られたくはなかった。そういうところに来ると彼女は已《や》むを得ず口を噤《つぐ》んで、解らないところに出遇《でっくわ》したように装った(おお何という悪いことだろう、私はこのごろ人様の前で自分を偽《いつわ》らねばいられないようになってきた、とおぬいは心の中で嘆息するのだった)。
「そこですか。それは何んでもないじゃありませんか」
と渡瀬さんは無遠慮にいって、頭のいい人らしくはっきり解るように教えてくれた。おぬいはその間にようやく感情を抑えつけて、また先きを読みつづけてゆくことができた。そしてこういうことが二度三度と重なっていった。おぬいはまた烈しい感情で心を揺り動かされて、胸のところに酸《す》っぱく衝《つ》き上げてくるようなものを感じながら黙ってしまった。しかし渡瀬さんは今度は即座には教えてくれなかった。不思議には思いながらも、しばらくたってから、ようやく顔を上げてみると、渡瀬さんは充血《じ
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