べると、白石の思想は一見平凡にも単調にも思えるけれども、自分の面目《めんもく》と生活とから生れでていないものは一つもなく、しかもその範囲《はんい》においては、すべての人がかりそめに考えるような平凡な思想家ではけっしてなかったということを証明したかったのだ。徂徠が野にいたのも、白石が官儒として立ったのも、たんなる表面観察では誤りに陥《おちい》りやすいことを論定したかった。この事業は清逸にとってはたんなる遊戯ではなかった。彼はこの論文において彼自身を主張しようとするのだ。これは西山、および西山一派の青年に対する挑戦のようなものだった。
白石文集、ことに「折焚《おりた》く柴《しば》の記《き》」からの綿密な書きぬきを対照しながら、清逸はほとんど寒さも忘れはてて筆を走らせた。彼はあらゆる熱情を胸の奥深く葬ってしまって、氷のように冷かな正確な論理によって、自分の主張を事実によって裏書きしようとした。ややもすれば筆の先に迸《ほとばし》りでようとする感激を、しいて呑みくだすように押えつけた。彼のペンは容易にはかどらなかった。
アイヌと、熊と、樺戸監獄の脱獄囚との隠れ家だとされているこの千歳の山の中
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