た。
「お前は偉くなろうとそんなことばかり思っているから肺病に取りつかれるんだ。田舎にいろよ、じきなおるに」
「そうだなあ、俺もこのごろは時々そう思う。おせいにも可哀そうだしな」
「そんだとも、皆んな可哀そうだな。姉さん泣いてべえさ」
清逸は不思議にも黙って考えこみたいような気分になった。そしてすべての人から軽蔑されているだらし[#「だらし」に傍点]ない純次の姿が、何となくなつかしいものに眺めやられた。その上彼の偶然な言葉には一つ一つ逆説的な誠があると思った。純次はどことなく締りのない風をして、無性に長い足をよじれるように運ばせながら、両手を外套の衣嚢《かくし》に突っこんだまま、おぼつかなく清逸の眼の前を歩いていった。人生というものが暗く清逸の眼に映った。
その夜清逸は純次の部屋でおそくまで働いた。純次の机の上からつまらぬ雑誌類やくだらぬ玩具《がんぐ》じみたものを払いのけて、原稿用紙に向った。純次はそのすぐそばで前後も知らず寝入っていた。丹前を着て、その上に毛布を被ってもなお滲み透ってくるような寒さを冒して、清逸は「折焚く柴の記と新井白石」という論文をし上げようとした。物に熱中した
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