考えた。
「俺は世話を焼くのも嫌いだ。世話を焼かれるのも嫌いだ。……俺はエゴイストに違いない。ところが俺のエゴイズムは、俺の頭が少し優れているというところから来ていると誰もが考えそうなことだが、そんな浅薄なものではないんだ。たとえ頭は少しは優れていようとも、俺は貧乏でしかも死病に取りつかれているんだから、喜んで世話を焼いてもらう資格は十分にあるんだ。それにもかかわらず、俺は世話を焼かれるのはいやだ。……俺はもっと自然に近くありたいのだ。自然は俺をこんなに生みつけた、こんなに病気にした。しかもそれは自然の知ったことじゃないんだ。自然というものは心憎い姿を持っている」
清逸はどんどん流れてゆく河の水を見つめながらこんなことを考えた。そしてそのとたん、気がついたように眼をあげてあたりを眺めまわした。実際清逸に見やられる自然は、清逸とは何んのかかわりもないもののように、ただ忙がしく夜につながろうとしていた。河は思い存分に流れていた。空は思い存分に暗くなりまさっていた。木の葉は思い存分に散っていた。枯枝は思い存分に強直していた。その間には何らの連絡もないもののように。清逸は深い淋しさを感じた。
前へ
次へ
全255ページ中155ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング