とした。
渡瀬は今日もまた新井田氏と罫紙《けいし》とをかたみ代りに見やりながら続けた。
「これがシャッターの回転数と蓄音機の円盤の回転数との関係を示した項式です。こういう具合にシャッターの方をAとし、円盤の方をBとすると、AとTとの積は、一定時間におけるAのヴェロシティすなわちVだから、それからこの項式が出てくるのです。そこに持ってきてBの方はこうなるでしょう」
新井田氏は半分解らないながらも、中腰になったまま、卓によりかかって神妙に渡瀬の説明に耳を傾けているらしくみえた。渡瀬はできるだけ解りやすくと、噛みくだくようにものをいっていたが符号《ふごう》や数字が眼の前に数限りなくならんでいるのを辿《たど》っていくと、新井田氏の存在などはだんだん薄ぼやけてきた。今まで奥さんを眼の前にすえてふやけていた彼の頭はみるみる緊張して、水晶のような透明さを持ちはじめた。数字がたんなる数字ではなくなった。いわばそれらは大きな兵士の群のようだった。そのおのおのが持っている任務と力量とを彼は指揮官のように知っていた。彼はそれを用いてある勝敗を争おうとするのだ。彼の得意とする将棋《しょうぎ》や囲碁《いご》
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