ら、美しい眼が下向きに、滴り落ちる酒にそそがれて、上瞼の長い睫毛《まつげ》のやや上反りになったのが、黒い瞳のほほ笑みを隠した。やや荒《すさ》んだ声で言われた下卑たその言葉と、その時渡瀬の眼に映った奥さんの睫毛《まつげ》の初々しさとの不調和さが、渡瀬を妙に調子づかせた。
「飲めないことがあるものか、始終晩酌の御相伴《ごしょうばん》はやっているくせに」
「じゃそれで一杯いただくわ」
渡瀬はこりゃと思った。埒がゆさゆさと揺《ゆす》ぶられても、この女は逃げを張らないのみか、一と足こっちに近づこうとするらしい。構えるように膝の上に上体を立てなおして、企《たくら》みもしないのに、肩から、膝の上に上向きに重ねた手の平までの、やや血肥りな腕に美しい線を作って、ほほ笑んだ瞳をそのままこちらに向けて、小首をかしげるようにしたその姿は、自分のいいだした言葉、しようとしていることを、まったく知らない無邪気《むじゃき》さかとみえるほど平気なものだった。渡瀬に残されたただ一つのことは、どたん場で背負投げを喰わない用心だけだ。
「いいんですか」
「何がよ」
すぐこういう答えが出た。
「ははは、何がっていわれれば
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