んということなく園から眼を放して仰向けに天井を見た。白い安西洋紙で張りつめた天井には鼠の尿ででもあるのか、雲形の汚染《しみ》がところどころにできている。象の形、スカンディナヴィヤ半島のようにも、背中合せの二匹の犬のようにも見える形、腕のつけ根に起き上り小法師《こぼし》の喰いついた形、醜《みにく》い女の顔の形……見なれきったそれらの奇怪な形を清逸は順々に眺めはじめた。
さすがの園もいろいろな意味で少し驚いたらしかった。最後の瞬間までどんなことでも胸一つに納《おさ》めておいて、切りだしたら最後貫徹しないではおかない清逸の平生を知らない園ではないはずだ。だがあの健康で明日突然千歳に帰るということも、おぬいさんに英語を教えろということも、すべてがあまりに突然に思えたらしかった。清逸が、象の形、スカンディナヴィヤ半島のようにも、背中合せの二匹の犬のようにも見える形、腕のつけ根に起き上り小法師の喰いついた形から醜い女の顔の形へ視線を移したころ、
「では君もいよいよ東京に行くの」
と園が言った。そしておぬいさんの手紙を素直に洋服の内|衣嚢《かくし》にしまいこんだ。
園はおぬいさんに牽《ひ》きつ
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