小さき者へ
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)繰拡《くりひろ》げて

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)それは物|凄《すご》くさえあった

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)思わずほっ[#「ほっ」に傍点]と
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 お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡《くりひろ》げて見る機会があるだろうと思う。その時この小さな書き物もお前たちの眼の前に現われ出るだろう。時はどんどん移って行く。お前たちの父なる私がその時お前たちにどう映《うつ》るか、それは想像も出来ない事だ。恐らく私が今ここで、過ぎ去ろうとする時代を嗤《わら》い憐《あわ》れんでいるように、お前たちも私の古臭い心持を嗤い憐れむのかも知れない。私はお前たちの為《た》めにそうあらんことを祈っている。お前たちは遠慮なく私を踏台にして、高い遠い所に私を乗り越えて進まなければ間違っているのだ。然しながらお前たちをどんなに深く愛したものがこの世
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