想的に行くか何《ど》うか、それは随分困難のことでせう。私も常にその覚悟はしてゐます。
A 先つきのお話のやうに、今のところは村の出這入りが多少あつても『新らしい村』などの場合と違つて、家族と一緒に暮すのですから、割合に居着き易いと思ひますが、それに土地が自分のものにはなるし、暮し易くはなるしするのですから、段々安住する気になると思ひますが。それに、今度の制度の訓練が段々に上手になつて来ましたら。
B それはそんなものかも知れませんが。それとは又別な困難が一つあるのですから。田舎にばかりゐる人は、何《ど》うしても都会に憧れを持つのです。その都会憧憬の心ですな。その為めに小汚ない百姓の足を洗つて、都会へ出てもつと綺麗な仕事をしてみたいといふやうな気が起るのですな。その為めに、落ちつけなくなるのです。私が教へた生徒の中に、一人千葉県人が居りましたが、その人の話に依ると、その村の青年達の理想は、東京へ出て来て自動車の運転手になることだといふから呆れるぢやありませんか。
A 成程、鎌子事件の主人公となつた夢なども悪くはありませんね。
B そんなことで、いろ/\の困難なことが伴つて来るだらうと思ひ
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