冷静な北方の血と、わりに濃い南方の血とが混り合ってできている。その混り具合によって、兄弟の性格が各自《めいめい》異なっているのだと思う。私自身の性格から言えば、もとより南方の血を認めないわけにはいかないが、わりに北方の血を濃く承けていると思う。どっちかといえば、内気な、鈍重な、感情を表面に表わすことをあまりしない、思想の上でも飛躍的な思想を表わさない性質《たち》で、色彩にすれば暗い色彩であると考えている。したがって境遇に反応してとっさに動くことができない。時々私は思いもよらないようなことをするが、それはとっさの出来事ではない。私なりに永く考えた後にすることだ。ただそれをあらかじめ相談しないだけのことだ。こういう性質をもって、私の家のような家に長男に生まれた私だから、自分の志す道にも飛躍的に入れず、こう遅れたのであろうと思う。
父は長男たる私に対しては、ことに峻酷《しゅんこく》な教育をした。小さい時から父の前で膝《ひざ》をくずすことは許されなかった。朝は冬でも日の明け明けに起こされて、庭に出て立木打ちをやらされたり、馬に乗せられたりした。母からは学校から帰ると論語とか孝経とかを読ませら
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