はこゝに落付いてしまふだらう。そこには「生」は形をひそめてたゞ一つの「大死」があるばかりだらう。その時運命の目論見は始めて成就されるのだ。
この已むを得ざる結論を我等は如何しても承認しなければならない。
○
我等「人」は運命のこの目論見を承認する。而かも我等の本能が──人間としての本能が我等に強要するものは死ではなくしてその反対の生である。
人生に矛盾は多い。それがある時は喜劇的であり、ある時は悲劇的である。而して我等が、歩いて行く到達点が死である事を知り抜きながら、なほ力は極めて生きるが上にも生きんとする矛盾ほど奇怪な恐ろしい矛盾はない。私はそれを人生の最も悲劇的な矛盾であると云はう。
○
我等は現在の瞬間々々に於て本統に生きるものだと云つてゐる。一瞬の未来は兎に角、一瞬の現在は少くとも生の領域だ。そこに我等の存在を意識してゐる以上、未来劫の後に来べき運命の所為を顧慮する要はない。さうある人々は云ふかも知れない。
然しこれは結局一種のごまかし[#「ごまかし」に傍点]で一種の観念論だ。
人間と云はず、生物が地上生活を始めるや否や、一として死に脅迫
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