て」
悶絶《もんぜつ》するような苦しみの中から、葉子はただ一言《ひとこと》これだけを夢中になって叫んだ。つやは医員に促されているらしかったが、やがて一台の蝋燭《ろうそく》を葉子の身近に運んで来て、葉子の見ている前でそれを焼き始めた。めら[#「めら」に傍点]めらと紫色の焔《ほのお》が立ち上がるのを葉子は確かに見た。
それを見ると葉子は心からがっかり[#「がっかり」に傍点]してしまった。これで自分の一生はなんにもなくなったと思った。もういい……誤解されたままで、女王は今死んで行く……そう思うとさすがに一抹《いちまつ》の哀愁がしみじみと胸をこそいで通った。葉子は涙を感じた。しかし涙は流れて出ないで、目の中が火のように熱くなったばかりだった。
またもひどい疼痛《とうつう》が襲い始めた、葉子は神の締《し》め木《ぎ》にかけられて、自分のからだが見る見るやせて行くのを自分ながら感じた。人々が薄気味わるげに見守っているのにも気がついた。
それでもとうとうその夜も明け離れた。
葉子は精《せい》も根《こん》も尽き果てようとしているのを感じた。身を切るような痛みさえが時々は遠い事のように感じられ出したのを知った。もう仕残していた事はなかったかと働きの鈍った頭を懸命に働かして考えてみた。その時ふと[#「ふと」に傍点]定子の事が頭に浮かんだ。あの紙を焼いてしまっては木部と定子とがあう機会はないかもしれない。だれかに定子を頼んで……葉子はあわてふためきながらその人を考えた。
内田……そうだ内田に頼もう。葉子はその時不思議ななつかしさ[#「なつかしさ」に傍点]をもって内田の生涯《しょうがい》を思いやった。あの偏頗《へんぱ》で頑固《がんこ》で意地《いじ》っぱりな内田の心の奥の奥に小さく潜んでいる澄みとおった魂が始めて見えるような心持ちがした。
葉子はつやに古藤を呼び寄せるように命じた。古藤の兵営にいるのはつやも知っているはずだ。古藤から内田にいってもらったら内田が来てくれないはずはあるまい、内田は古藤を愛しているから。
それから一時間苦しみ続けた後に、古藤の例の軍服姿は葉子の病室に現われた。葉子の依頼をようやく飲みこむと、古藤はいちずな顔に思い入った表情をたたえて、急いで座を立った。
葉子はだれにとも何にともなく息気《いき》を引き取る前に内田の来るのを祈った。
しかし小石川《こ
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