「そんな飛んでもない!」
 岡がせきこんで葉子の言葉の切れ目にいい出そうとするのを、葉子は激しい笑いでさえぎった。
 「飛んでもない……そのとおり。あゝ頭が痛い。わたしは存分に呪《のろ》いを受けました。御安心なさいましとも。決してお邪魔はしませんから。わたしはさんざん踊りました。今度はあなた方《がた》が踊っていい番ですものね。……ふむ、踊れるものならみごとに踊ってごらんなさいまし。……踊れるものなら、はゝゝ」
 葉子は狂女のように高々《たかだか》と笑った。岡は葉子の物狂おしく笑うのを見ると、それを恥じるようにまっ紅《か》になって下を向いてしまった。
 「聞いてください」
 やがて岡はこういってきっ[#「きっ」に傍点]となった。
 「伺いましょう」
 葉子もきっ[#「きっ」に傍点]となって岡を見やったが、すぐ口じりにむごたらしい皮肉な微笑をたたえた。それは岡の気先《きさき》をさえ折るに充分なほどの皮肉さだった。
 「お疑いなさってもしかたがありません。わたし、愛子さんには深い親しみを感じております……」
 「そんな事なら伺うまでもありませんわ。わたしをどんな女だと思っていらっしゃるの。愛子さんに深い親しみを感じていらっしゃればこそ、けさはわざわざ何日《いつ》ごろ死ぬだろうと見に来てくださったのね。なんとお礼を申していいか、そこはお察しくださいまし。きょうは手術を受けますから、死骸《しがい》になって手術室から出て来る所をよっく御覧なさってあなたの愛子に知らせて喜ばしてやってくださいましよ。死にに行く前に篤《とく》とお礼を申します。絵島丸ではいろいろ御親切をありがとうございました。お陰様でわたしはさびしい世の中から救い出されました。あなたをおにいさんともお慕いしていましたが、愛子に対しても気恥ずかしくなりましたから、もうあなたとは御縁を断ちます。というまでもない事ですわね。もう時間が来ますからお立ちくださいまし」
 「わたし、ちっとも[#「ちっとも」に傍点]知りませんでした。ほんとうにそのおからだで手術をお受けになるのですか」
 岡はあきれたような顔をした。
 「毎日大学に行くつやはばかですから何も申し上げなかったんでしょうよ。申し上げてもお聞こえにならなかったかもしれませんわね」
 と葉子はほほえんで、まっさおになった顔にふりかかる髪の毛を左の手で器用にかき上げた。その
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