しかし倉地には二人《ふたり》ほどの外妾《がいしょう》があると付け加えて書いてあるのを見て、ほんとうにあなたをお気の毒に思いました。この手紙を皮肉に取らないでください。僕《ぼく》には皮肉はいえません。
「僕はあなたが失望なさらないように祈ります。僕は来週の月曜日から習志野《ならしの》のほうに演習に行きます。木村からのたよりでは、彼は窮迫の絶頂にいるようです。けれども木村はそこを突き抜けるでしょう。
「花を持って来てみました。お大事に。
古 藤 生」
[#ここで字下げ終わり]
つやはつかえつかえそれだけを読み終わった。始終古藤をはるか年下な子供のように思っている葉子は、一種|侮蔑《ぶべつ》するような無感情をもってそれを聞いた。倉地が外妾《がいしょう》を二人《ふたり》持ってるといううわさは初耳ではあるけれども、それは新聞の記事であってみればあて[#「あて」に傍点]にはならない。その外妾二人というのが、美人屋敷と評判のあったそこに住む自分と愛子ぐらいの事を想像して、記者ならばいいそうな事だ。ただそう軽くばかり思ってしまった。
つやがその花束をガラスびんにいけて、なんにも飾ってない床の上に置いて行ったあと、葉子は前同様にハンケチを顔にあてて、機械的に働く心の影と戦おうとしていた。
その時突然死が――死の問題ではなく――死がはっきり[#「はっきり」に傍点]と葉子の心に立ち現われた。もし手術の結果、子宮底に穿孔《せんこう》ができるようになって腹膜炎を起こしたら、命の助かるべき見込みはないのだ。そんな事をふと思い起こした。部屋《へや》の姿も自分の心もどこといって特別に変わったわけではなかったけれども、どことなく葉子の周囲には確かに死の影がさまよっているのをしっかりと感じないではいられなくなった。それは葉子が生まれてから夢にも経験しない事だった。これまで葉子が死の問題を考えた時には、どうして死を招き寄せようかという事ばかりだった。しかし今は死のほうがそろそろと近寄って来ているのだ。
月はだんだん光を増して行って、電灯に灯《ひ》もともっていた。目の先に見える屋根の間からは、炊煙だか、蚊遣《かや》り火《び》だかがうっすらと水のように澄みわたった空に消えて行く。履《は》き物《もの》、車馬の類、汽笛の音、うるさいほ
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