した。それを見なければならぬ葉子はたまらなかった。どうかした拍子《ひょうし》に、葉子は飛び上がりそうに心が責められた。これで貞世が死んでしまったなら、どうして生き永《なが》らえていられよう。貞世をこんな苦しみにおとしいれたものはみんな自分だ。自分が前どおりに貞世に優しくさえしていたら、こんな死病は夢にも貞世を襲って来はしなかったのだ。人の心の報いは恐ろしい……そう思って来ると葉子はだれにわびようもない苦悩に息気《いき》づまった。
 緑色の風呂敷《ふろしき》で包んだ電燈の下に、氷嚢《ひょうのう》を幾つも頭と腹部とにあてがわれた貞世は、今にも絶え入るかと危ぶまれるような荒い息気《いき》づかいで夢現《ゆめうつつ》の間をさまようらしく、聞きとれない囈言《うわごと》を時々口走りながら、眠っていた。岡は部屋《へや》のすみのほうにつつましく突っ立ったまま、緑色をすかして来る電燈の光でことさら青白い顔色をして、じっ[#「じっ」に傍点]と貞世を見守っていた。葉子は寝台に近く椅子《いす》を寄せて、貞世の顔をのぞき込むようにしながら、貞世のために何かし続けていなければ、貞世の病気がますます重《おも》るという迷信のような心づかいから、要もないのに絶えず氷嚢《ひょうのう》の位置を取りかえてやったりなどしていた。
 そして短い夜はだんだんにふけて行った。葉子の目からは絶えず涙がはふり落ちた。倉地と思いもかけない別れかたをしたその記憶が、ただわけもなく葉子を涙ぐました。
 と、ふっ[#「ふっ」に傍点]と葉子は山内《さんない》の家のありさまを想像に浮かべた。玄関わきの六畳ででもあろうか、二階の子供の勉強|部屋《べや》ででもあろうか、この夜ふけを下宿から送られた老女が寝入ったあと、倉地と愛子とが話し続けているような事はないか。あの不思議に心の裏を決して他人に見せた事のない愛子が、倉地をどう思っているかそれはわからない。おそらくは倉地に対しては何の誘惑も感じてはいないだろう。しかし倉地はああいうしたたか[#「したたか」に傍点]者だ。愛子は骨に徹する怨恨《えんこん》を葉子に対していだいている。その愛子が葉子に対して復讐《ふくしゅう》の機会を見いだしたとこの晩思い定めなかったとだれが保証し得よう。そんな事はとうの昔に行なわれてしまっているのかもしれない。もしそうなら、今ごろは、このしめやかな夜を……太陽が
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