った。そこに一人残された愛子……長い時間の間《あいだ》にどんな事でも起こり得ずにいるものか。そう気を回し出すと葉子は貞世の寝台のかたわらにいて、熱のために口びるがかさ[#「かさ」に傍点]かさになって、半分目をあけたまま昏睡《こんすい》しているその小さな顔を見つめている時でも、思わずかっ[#「かっ」に傍点]となってそこを飛び出そうとするような衝動に駆り立てられるのだった。
しかしまた短く感じられるほうの期間にはただ貞世ばかりがいた。末子として両親からなめるほど溺愛《できあい》もされ、葉子の唯一の寵児《ちょうじ》ともされ、健康で、快活で、無邪気で、わがままで、病気という事などはついぞ知らなかったその子は、引き続いて父を失い、母を失い、葉子の病的な呪詛《じゅそ》の犠牲となり、突然死病に取りつかれて、夢にもうつつにも思いもかけなかった死と向かい合って、ひたすらに恐れおののいている、その姿は、千丈の谷底に続く崕《がけ》のきわに両手だけでぶら下がった人が、そこの土がぼろぼろとくずれ落ちるたびごとに、懸命になって助けを求めて泣き叫びながら、少しでも手がかりのある物にしがみつこうとするのを見るのと異ならなかった。しかもそんなはめ[#「はめ」に傍点]に貞世をおとしいれてしまったのは結局自分に責任の大部分があると思うと、葉子はいとしさ悲しさで胸も腸《はらわた》も裂けるようになった。貞世が死ぬにしても、せめては自分だけは貞世を愛し抜いて死なせたかった。貞世をかりにもいじめるとは……まるで天使のような心で自分を信じきり愛し抜いてくれた貞世をかりにも没義道《もぎどう》に取り扱ったとは……葉子は自分ながら葉子の心の埒《らち》なさ恐ろしさに悔いても悔いても及ばない悔いを感じた。そこまで詮《せん》じつめて来ると、葉子には倉地もなかった。ただ命にかけても貞世を病気から救って、貞世が元通りにつやつやしい健康に帰った時、貞世を大事に大事に自分の胸にかき抱《いだ》いてやって、
「貞《さあ》ちゃんお前はよくこそなおってくれたね。ねえさんを恨まないでおくれ。ねえさんはもう今までの事をみんな後悔して、これからはあなたをいつまでもいつまでも後生《ごしょう》大事にしてあげますからね」
としみじみと泣きながらいってやりたかった。ただそれだけの願いに固まってしまった。そうした心持ちになっていると、時間はただ矢のよ
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