でいっぱいになった。えゝ、いっその事死んでくれ。この血祭りで倉地が自分にはっきり[#「はっきり」に傍点]つながれてしまわないとだれがいえよう。人身御供《ひとみごくう》にしてしまおう。そう葉子は恐怖の絶頂にありながら妙にしん[#「しん」に傍点]とした心持ちで思いめぐらした。そしてそこにぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]したまま突っ立っていた。
いつのまに行ったのか、倉地と古藤とが六畳の間《ま》から首を出した。
「お葉さん……ありゃ泣いたためばかりの熱じゃない。早く来てごらん」
倉地のあわてるような声が聞こえた。
それを聞くと葉子は始めて事の真相がわかったように、夢から目ざめたように、急に頭がはっきり[#「はっきり」に傍点]して六畳の間《ま》に走り込んだ。貞世はひときわ背たけが縮まったように小さく丸まって、座ぶとんに顔を埋《うず》めていた。膝《ひざ》をついてそばによって後頸《うなじ》の所にさわってみると、気味の悪いほどの熱が葉子の手に伝わって来た。
その瞬間に葉子の心はでんぐり[#「でんぐり」に傍点]返しを打った。いとしい貞世につらく当たったら、そしてもし貞世がそのために命を落とすような事でもあったら、倉地を大丈夫つかむ事ができると何がなしに思い込んで、しかもそれを実行した迷信とも妄想《もうそう》ともたとえようのない、狂気じみた結願《けちがん》がなんの苦もなくばら[#「ばら」に傍点]ばらにくずれてしまって、その跡にはどうかして貞世を活《い》かしたいという素直《すなお》な涙ぐましい願いばかりがしみじみと働いていた。自分の愛するものが死ぬか活《い》きるかの境目《さかいめ》に来たと思うと、生への執着と死への恐怖とが、今まで想像も及ばなかった強さでひし[#「ひし」に傍点]ひしと感ぜられた。自分を八つ裂《ざ》きにしても貞世の命は取りとめなくてはならぬ。もし貞世が死ねばそれは自分が殺したんだ。何も知らない、神のような少女を……葉子はあらぬことまで勝手に想像して勝手に苦しむ自分をたしなめるつもりでいても、それ以上に種々な予想が激しく頭の中で働いた。
葉子は貞世の背をさすりながら、嘆願するように哀恕《あいじょ》を乞《こ》うように古藤や倉地や愛子までを見まわした。それらの人々はいずれも心痛《こころいた》げな顔色を見せていないではなかった。しかし葉子から見るとそれはみんな贋物《に
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