見ながら団扇《うちわ》をつかった。
 古藤はしばらく黙っていてから後ろを振り仰いで葉子を見やりつつ、
 「葉子さん……まあ、す、すわってください」
 と少しどもるようにしいて穏やかにいった。葉子はその時始めて、われにもなくそれまでそこに突っ立ったままぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]していたのを知って、自分にかつてないようなとんきょ[#「とんきょ」に傍点]な事をしていたのに気が付いた。そして自分ながらこのごろはほんとうに変だと思いながら二人《ふたり》の間に、できるだけ気を落ち着けて座についた。古藤の顔を見るとやや青ざめて、こめかみの所に太い筋を立てていた。葉子はその時分になって始めて少しずつ自分を回復していた。
 「古藤さん、倉地さんは少しお酒を召し上がった所だからこんな時むずかしいお話をなさるのはよくありませんでしたわ。なんですか知りませんけれども今夜はもうそのお話はきれいにやめましょう。いかが?……またゆっくりね……あ、愛さん、あなたお二階に行って縫いかけを大急ぎで仕上げて置いてちょうだい、ねえさんがあらかた[#「あらかた」に傍点]してしまってあるけれども……」
 そういって先刻から逐一|二人《ふたり》の争論をきいていたらしい愛子を階上に追い上げた。しばらくして古藤はようやく落ち着いて自分の言葉を見いだしたように、
 「倉地さんに物をいったのは僕《ぼく》が間違っていたかもしれません。じゃ倉地さんを前に置いてあなたにいわしてください。お世辞でもなんでもなく、僕は始めからあなたには倉地さんなんかにはない誠実な所が、どこかに隠れているように思っていたんです。僕のいう事をその誠実な所で判断してください」
 「まあきょうはもういいじゃありませんか、ね。わたし、あなたのおっしゃろうとする事はよっくわかっていますわ。わたし決して仇《あだ》やおろそかには思っていませんほんとうに。わたしだって考えてはいますわ。そのうちとっくり[#「とっくり」に傍点]わたしのほうから伺っていただきたいと思っていたくらいですからそれまで……」
 「きょう聞いてください。軍隊生活をしていると三人でこうしてお話しする機会はそうありそうにはありません。もう帰営の時間が逼《せま》っていますから、長くお話はできないけれども……それだから我慢して聞いてください」
 それならなんでも勝手にいってみるがいい、仕儀によ
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