地との愛がより緊《かた》く結ばれるという迷信のような心の働きから起こった事だった。愛しても愛し足りないような貞世につらく当たって、どうしても気の合わない愛子を虫を殺して大事にしてみたら、あるいは倉地の心が変わって来るかもしれないとそう葉子は何がなしに思うのだった。で、倉地と愛子との間にどんな奇怪な徴候を見つけ出そうとも、念にかけても葉子は愛子を責めまいと覚悟をしていた。
「愛さん古藤さんがね、大急ぎでこの縁《ふち》を縫ってもらいたいとおっしゃるんだから、あなたして上げてちょうだいな。古藤さん、今下には倉地さんが来ていらっしゃるんですが、あなたはおきらいねおあいなさるのは……そう、じゃこちらでお話でもしますからどうぞ」
そういって古藤を妹たちの部屋《へや》の隣に案内した。古藤は時計を見い見いせわしそうにしていた。
「木村からたよりがありますか」
木村は葉子の良人《おっと》ではなく自分の親友だといったようなふうで、古藤はもう木村君とはいわなかった。葉子はこの前古藤が来た時からそれと気づいていたが、きょうはことさらその心持ちが目立って聞こえた。葉子はたびたび来ると答えた。
「困っているようですね」
「えゝ、少しはね」
「少しどころじゃないようですよ僕《ぼく》の所に来る手紙によると。なんでも来年に開かれるはずだった博覧会が来々年《さらいねん》に延びたので、木村はまたこの前以上の窮境に陥ったらしいのです。若いうちだからいいようなもののあんな不運な男もすくない。金も送っては来ないでしょう」
なんというぶしつけ[#「ぶしつけ」に傍点]な事をいう男だろうと葉子は思ったが、あまりいう事にわだかまり[#「わだかまり」に傍点]がないので皮肉でもいってやる気にはなれなかった。
「いゝえ相変わらず送ってくれますことよ」
「木村っていうのはそうした男なんだ」
古藤は半ばは自分にいうように感激した調子でこういったが、平気で仕送りを受けているらしく物をいう葉子にはひどく反感を催したらしく、
「木村からの送金を受け取った時、その金があなたの手を焼きただらかすようには思いませんか」
と激しく葉子をまとも[#「まとも」に傍点]に見つめながらいった。そして油でよごれたような赤い手で、せわしなく胸の真鍮《しんちゅう》ぼたんをはめたりはずしたりした。
「なぜですの」
「木村は困り
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