たが、どうも双鶴館《そうかくかん》の女将《おかみ》らしくもあった。葉子はかっ[#「かっ」に傍点]となって足早にそのあとをつけた。二人の間は半町とは離れていなかった。だんだん二人の間に距離がちぢまって行って、その女が街灯の下を通る時などに気を付けて見るとどうしても思ったとおりの女らしかった。さては今まであの女を真《ま》正直に信じていた自分はまんま[#「まんま」に傍点]と詐《いつわ》られていたのだったか。倉地の妻に対しても義理が立たないから、今夜以後葉子とも倉地の妻とも関係を絶《た》つ。悪く思わないでくれと確かにそういった、その義侠《ぎきょう》らしい口車《くちぐるま》にまんま[#「まんま」に傍点]と乗せられて、今まで殊勝な女だとばかり思っていた自分の愚かさはどうだ。葉子はそう思うと目が回ってその場に倒れてしまいそうなくやしさ恐ろしさを感じた。そして女の形を目がけてよろよろとなりながら駆け出した。その時女はそのへんに辻待《つじま》ちをしている車に乗ろうとする所だった。取りにがしてなるものかと、葉子はひた走りに走ろうとした。しかし足は思うようにはかど[#「はかど」に傍点]らなかった。さすがにその静けさを破って声を立てる事もはばかられた。もう十|間《けん》というくらいの所まで来た時車はがらがらと音を立てて砂利道《じゃりみち》を動きはじめた。葉子は息気《いき》せき切ってそれに追いつこうとあせったが、見る見るその距離は遠ざかって、葉子は杉森《すぎもり》で囲まれたさびしい暗闇《くらやみ》の中にただ一人《ひとり》取り残されていた。葉子はなんという事なくその辻車《つじぐるま》のいた所まで行って見た。一台よりいなかったので飛び乗ってあとを追うべき車もなかった。葉子はぼんやりそこに立って、そこに字でも書き残してあるかのように、暗い地面《じめん》をじっ[#「じっ」に傍点]と見つめていた。確かにあの女に違いなかった。背《せい》格好といい、髷《まげ》の形といい、小刻みな歩きぶりといい、……あの女に違いなかった。旅行に出るといった倉地は疑いもなくうそ[#「うそ」に傍点]を使って下宿にくすぶっているに違いない。そしてあの女を仲人《ちゅうにん》に立てて先妻とのより[#「より」ノ傍点]を戻《もど》そうとしているに決まっている。それに何の不思議があろう。長年連れ添った妻ではないか。かわいい三人の娘の母では
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