てい》よく避けた。笠井の娘を犯したものは――何らの証拠がないにもかかわらず――仁右衛門に相違ないときまってしまった。凡《すべ》て村の中で起ったいかがわしい出来事は一つ残らず仁右衛門になすりつけられた。
仁右衛門は押太《おしぶ》とく腹を据えた。彼れは自分の夢をまだ取消そうとはしなかった。彼れの後悔しているものは博奕《ばくち》だけだった。来年からそれにさえ手を出さなければ、そして今年同様に働いて今年同様の手段を取りさえすれば、三、四年の間に一かど纏《まと》まった金を作るのは何でもないと思った。いまに見かえしてくれるから――そう思って彼れは冬を迎えた。
しかし考えて見ると色々な困難が彼れの前には横《よこた》わっていた。食料は一冬事かかぬだけはあっても、金は哀れなほどより貯えがなかった。馬は競馬以来廃物になっていた。冬の間|稼《かせ》ぎに出れば、その留守に気の弱い妻が小屋から追立てを喰うのは知れ切っていた。といって小屋に居残れば居食いをしている外《ほか》はないのだ。来年の種子《たね》さえ工面のしようのないのは今から知れ切っていた。
焚火《たきび》にあたって、きかなくなった馬の前脚をじっと
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