る通り、定《き》まった事は定まったようにせんとならんじゃが、多い中じゃに無理もないようなものの、亜麻などを親方、ぎょうさん[#「ぎょうさん」に傍点]つけたものもあって、まこと済まん次第じゃが、無理が通れば道理もひっこみよるで、なりませんじゃもし」
 仁右衛門は場規もかまわず畑の半分を亜麻にしていた。で、その言葉は彼れに対するあてこすり[#「あてこすり」に傍点]のように聞こえた。
 「今日なども顔を出しよらん横道者《よこしまもの》もありますじゃで……」
 仁右衛門は怒りのために耳がかァん[#「かァん」に傍点]となった。笠井はまだ何か滑らかにしゃべっていた。
 場主がまだ何か訓示めいた事をいうらしかったが、やがてざわざわと人の立つ気配がした。仁右衛門は息気《いき》を殺して出て来る人々を窺《うか》がった。場主が帳場と一緒に、後から笠井に傘《かさ》をさしかけさせて出て行った。労働で若年の肉を鍛《きた》えたらしい頑丈《がんじょう》な場主の姿は、何所《どこ》か人を憚《はば》からした。仁右衛門は笠井を睨《にら》みながら見送った。やや暫《しば》らくすると場内から急にくつろいだ談笑の声が起った。そして二
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