共の喧嘩の事、人出の多かった事、二十台あまりの神輿が並んだ時の立派さ、夕日が照り返して、錺《かざり》の金物がピカ/\と光って綺麗に見えた事などを幾度も/\繰り返した。巡査に相手になって困らせたことを如何にも得意になって話した。恭三も表面だけは如何にも面白そうな樣子をして時々調子を合せて、つとめて父の気に入りそうな事を聞いて見たりした。
 父は此上もなく喜んだ。恭三達が自分の話を皆面白相に聞いて居るのを見て如何にも満足に思ったらしい。何時の間にか其処に横になって大きな鼾《いびき》をかき出した。三人して引摺る様に蚊帳の中に入れるのも知らなかった。
 母は飯を食べなかった事を何度も呟《つぶ》やいた。
[#地から1字上げ](明治四十三年)



底本:「日本文學全集 70 名作集(二)大正篇」新潮社
   1964(昭和39)年11月20日発行
入力:伊藤時也
校正:本山智子
2001年9月10日公開
2005年12月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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