と安心す。行程僅かに二里くらいなるに九時間も要せり。六時半小屋着、ときどき霧晴れて抜戸岳、笠ヶ岳を見る。この日雨風強く相当困難なり。

[#地から1字上げ]二十八日(水曜日)雨後晴
 早朝より相当風強けれども、十時過ぎ雨を冒して小山を出発、奥穂高取付き非常に困難、北穂高取付きと同様なかなか危険なり、されど道割合に分りよく無事奥穂高絶頂を極め、万歳三唱、名刺を置き、左の屋根に下る。ガレ道の下りなかなか困難、数時間にして前穂高着(地図の穂高)。展望台の壊れたるあり、三角点にて万歳三唱、名刺を置き、名刺入の缶の中を見れば矢沢氏(アルプスの本著者)等の名刺発見せり。二時間ほど霧の晴れ間を待つ、唐沢、上高地、明神方面ときどき見え痛快。なかなか霧晴れざる故あきらめ四時頃下山、乗鞍御岳の雄峰前に見、眺望よし。途中道瞭らかならず偃松等をわけ、あるいは水の流れるところ等を下る、なかなかはかどらず。されば谷を下ればよしと思い雪渓に出ずれば非常に急にして恐ろし、尻を着けアイスピッケルを股いで滑れば、はっと思う間に非常な速度にて滑り出し、止めんとすれども止らず、アイスピッケルにて頭等を打ち、途中投出され等して
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