五八メートルからアイゼンを履く。頂上まで広い平凡な尾根だった。この附近から見た冬山の大観はすばらしかった。薬師堂附近の雪庇は平凡な形のもので、その上を歩いても落ちなかった。下りはちょっとではあったが、なかなか愉快な滑降ができた。薬師や黒岳―赤牛の尾根等がアーベント・グリューエンに燃えているのを眺めながら上ノ岳の小屋へ帰って行った。小屋に着いた頃は、日は白山別山のところへ沈んで、月が薬師の北尾根の上に出ていた。
 四日は強い風の音がするので、また荒れているのかと思って出てみると、青空ではないがよく山が見えた。東の空は朝焼けがしているので悪くなるなと思ったが、荒れたら黒部五郎の小屋へ避難することにして出発した。上ノ岳の三角標石は完全に露出していた。ズーと尾根通りスキーで行く。黒部側は中腹に広々とした平がつづいているので、風の特に強いときはその辺を巻いて行ったら楽に違いないと思った。黒部五郎岳の二つ手前に、小さい岩場があったので、そこでスキーを脱ぐ。アイゼンで歩いてもさほど困難ではなかったから、そのまま黒部五郎岳まで進んで行った。黒部五郎岳は登りも降りも平凡な尾根で雪庇もなかった。二五八〇メ
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