いてしまう。そしてあの親切な老爺が「よくやってきた」と喜んで迎えてくれた。
[#ここから18字下げ]
二十七日 快晴 六・〇〇出発 一〇・三〇―一一・〇〇一ノ俣 二・三〇大槍小屋スキー・デポ 五・一五槍頂上 七・〇〇スキー・デポ 九・三〇一の俣
[#ここで字下げ終わり]
おじいさんはいつも寒暖計を見ながら「うんとシミれば天気はいいぜ」という。その通り今日もすばらしいお天気だ。去年は暗いうちに出てだいぶ困ったから、今度は明るくなってから出発することにする。明神池へ渡って川沿いに進み、横尾谷の出合から一ノ俣まであまり高廻りしないで川岸の岩場をへつったりする。小屋附近の積雪量は三尺くらい、今年は小屋を使用する人が多くなったためか、屋根の雪が煙で赤くなっている。槍沢附近はやはり雪が多い。赤沢岳の岩壁から滝のような雪崩が落ち、その音が意外に大きかったので驚いた。冬期太陽の直射によって出る雪崩は、こうした岩壁等の急斜面のみらしい。しかも雪質が湿っているため、落ちた斜面に食い込んでしまい殆んど押し出さない。山に登るには遅いと思ったが、天気はいいし、雪は堅くアイゼンで楽だったから頑張ってみる。風は
前へ
次へ
全233ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 文太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング