明神池七・三〇 一ノ俣小屋一一・〇〇 大槍小屋下二・三〇 一ノ俣小屋四・〇〇
二月十五日 曇 一ノ俣小屋八・三〇 槍肩二・〇〇 槍頂上三・一五 槍肩四・〇〇 一ノ俣小屋六・〇〇 上高地温泉一二・三〇
二月十六日 曇 上高地温泉八・三〇 沢渡二・〇〇 島島七・三〇
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    常念岳一の沢

 鳥川橋から一里ほど登ったところに山番小屋がある。この附近は昨日降ったという新雪が五寸くらい積っていた。ここから十町くらい登ったところで炭焼道と別れて細い道を伝う。川を渡って、ちょっと行ってから峠の登り口がわからず一度引返したりした。この峠の下りからスキーを履く。ところどころ旧雪が残っている。川を横切る二つの橋は雪が積っているので馬乗りになって渡った。普通の人にはできない体裁の悪い方法だ。一ノ沢に限らず森林帯はウインド・クラストになるまではラッセルに苦しむ。ちょうど運悪く早朝星が出ていたのが禍いして雪が盛んに降り出し、昨日の新雪が堅くなっていないのでスキーが一尺くらいも沈むのだからたまらない。常念道と書いてある道標を辿り、だいたい夏道通り進んで、一八〇〇メートルくらいまで登った。もすこしで常念の登りにかかるのだが、ここへくるまでの予定時間はとうに過ぎて、予想は裏切られ、これからの登りに要する時間の予想ができなくなった。雪も止まぬし、風さえ強くなってきたので、このまま登っても常念の小屋に入れるかどうか疑問であり、一度も通ったことのない中山峠もあるので、ついに引返してしまった。僕が一昨年の十月十六日に常念の肩へ登ったときは雪の降っている日ではあったが、まだ夏道がわかるので大して迷わなかった。しかしそのときはズッと下の尾根に登ったから旧道を通ったのだろう、崩れたところがあって困った。また昨年五月二十七日はズッと奥へ入ってしまい、最後に谷が四つに分れていたので、右の一番大きな雪渓を登った。そのときは霧が巻いていてどこを歩いているのかわからなかったが、山の頂上で三角標石を見つけ、初めて横通岳に登ったことがわかった。その後今年の三月三十一日にここを通ってみた。このときも雪が降っていて見通しがきかなかった。谷が狭くなって川が完全に雪に埋もれてから左側の小さい尾根の根元に常念道と書いた布が枯木に結びつけてあった。これを過ぎてすぐ左から入ってくる小さい谷を登ったら、運よくこ
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