で、上ノ岳絶頂と太郎山の中間にあり木が無いので風は強いところですが眺望のいいところです。水はどこにあるのかわかりませんでしたが、ちょっと下るとあるそうです。
薬師寺[#「寺」はママ]の絶頂には祠があります。今のは二代目らしく一つ壊れて落ちていました。ここのカールはとても雄大です。今なお雪がぎっしりつまっています。スゴ乗越の小屋は丈夫なもので薬師岳から下ってスゴ岳へ取付く少し手前、西へ大きな尾根を出したところの森林の中にあり、水は少し離れているようです。五色ヶ原は今なお残雪でところどころ蔽われていてなかなか雄大です、小屋はザラ峠から南へ五町くらい離れています。七十歳くらいのおじいさんとおばあさんが番をしていました。日電の人夫がたくさん泊って噪しく登山者も五、六人いました。黒部五郎の小屋や上ノ岳の小屋からこの小屋へくるのは普通ですが神戸徒歩会の連中は途中スゴ乗越の小屋へ泊ったようです。ただの三人で中語《ちゅうご》を二人も雇っているように書いてありました。金持はちがったものですね。
黒部川の渡しにはブランコのような吊橋がかかっています。ここには越中と信州の小屋が川を挟んであります。そこで日電の絵葉書をくれました。私は針ノ木峠から峰伝いに後立山を縦走しようと思っていましたが、峠にかかる前から雨が強く降り出したので大沢の小屋へ下ってしまいました。ここには対山館にいた松高生らしい人がいて私を見て随分早かったと感心していました。
扇沢登りは道らしいものはありませんが、割合楽でした。種ヶ池には今年できた小屋があり、池には山椒魚《さんしょううお》がいると書いてありました。鹿島槍を下って道は峰を巻いています。下り切って、少し巻いて進むと雪渓があり、これから道は東から下りて来る向いの谷にあるので七月頃なら雪渓が延びてその谷の上へ道が通じているのですが、私の通ったときは雪渓が切れて取付き口は土崩れのようになっていたので、この谷を登るということに気づかず、雪渓を上下して山の中腹に道を求めていると、ちょっと辷《すべ》ってけが[#「けが」に傍点]をし、引返し最後にこの谷を登るとわけなく道がわかってあんなに迷ったことが馬鹿らしいくらいでした。
五竜岳へ着いてからも霧がかかっていたため、三角点から引返すことに気づかず、黒部谷側の尾根と本尾根とを間違え、これを上下し随分迷い、疲れてここへ一泊す
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