ストが溶けて破れるほど気温が上昇すれば、雪崩発生の原因となる訳である。しかしこれほど気温の上昇する日はそれが降雨直後でなかったらなお一層激しい雪崩日であろう。とはいえ降雨直後は往々かように暖いと思われるほどの晴天の日があるものだ。
曇り日や霧の日――こんな日には風でもひどくない限り余り雪崩は起らない。これが降雪直後であっても気温等の変化が急には起らないので、雪は徐々に旧雪に変る。多くは晴天後のことなので全く雪崩から解放されているといってよい。
以上のような日はあまり登山をしたくない。それは危険というよりも晴天の日に比較して不愉快だからである。そして特に降雪の長くつづいているときと、降雨の日は小屋にいるのが退屈になったからといってスキーの練習等に出ない方がよい。
快晴の日――冬期でも降雪直後の快晴の日は気温の上昇によつて雪崩れるのであるが、それにしてもそれほど気温の影響を受けるのは日射面でかつ高度の低いところのみである。この場合の雪崩は湿雪雪崩であるから、急斜面にしか起らないうえ、三〇度以下の斜面には流動してこない。そのうえ音が大きく、流動速度が遅いし、春の雪崩とは比較にならないほど小さなものである。だいたいにおいて春期の雪崩と同じような条件で起るが、最初の雪質が粉雪とザラメ雪というようにかなり差があるし、気温は春期とは比較にならないほど低いのでまず問題にならない。この気温や日射によって出る雪崩より降雪直後、まだ霧のかかっているときに風等の外力によって発生する雪崩の方が危険であるから、青空が見え出したからといって登山をむやみに開始してはならない。すなわち降雪が朝方か夜中に止んだ場合は、翌日太陽が出るとぐんぐん気温が上るから、明るくなってから出発すれば危険な粉雪雪崩に逢うことがないし、夕方雪が止んだ場合はすぐ出かけるのは危険だから相当時間をおいて、朝方出発するように気をつけなければならない。
以上天候と雪崩を総合してみると、晴天の終りから曇天にかけて登山をすれば一番安全であるが、曇天のあいだの長さが一定していないので、やはり晴天の初めが朝であるならすぐ出発し、夕方なら翌朝早めに出発する。また雪崩の方は南向斜面を注意すればよいであろう。
道具について
上下つづいた防水布の服――冬期は大変風が強いので風通しのよい物はなにほど着ても駄目だ、やはり風を防
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