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冬山のことなど

    天候について

 天候は初冬の頃は一日のうちでも晴れたり曇ったりというようによく変化をするが、そのかわり大した荒れはない。すなわち晴天と荒天が曇天を中心として振りわけに小さい波形で変化をして行くのである。真冬になるに従ってこの変化の中で曇天から下の荒天の部分の波がだんだん大きくかつ長くなり、たいてい晴天一日、曇天一日、荒天二日という調子を繰返すようになる。そして春が近づくとまた初冬のように振りわけの波形に変るが、今度は大変ピッチの長い波になるようである。すなわち二日も三日も晴天がつづいたり、また荒天がつづいたりするのである。しかしこれらの天候中晴天の日と曇天の日はまず安全な登山日和だといえる。
 晴天になる前兆――普通降雪後は風が出て、一ノ俣の小屋だとか、弘法、猿倉、大沢小屋……等のように山の中腹以下から見ていると、ときどきこの雪雲が切れてその隙間に青空が見え出す、もちろん槍肩の小屋だとか、室堂、白馬頂上小屋、針ノ木峠小屋……等のように山頂附近からならこの雪雲は霧であって、この霧の切れ目に青空が見え出すわけである。そしてまたこれが暗いときならこの雲や霧の切れるごとにチラリチラリと星が見えるのである。もうこうなれば天候は全く快復しているのである。ただし雲が切れて行っても青空が見えぬとき、すなわち上空がまだ曇っているような場合はもう一度荒れると確信してよい。山頂附近には両方とも雪を降らすが、山麓では第一回の荒れが雨で、第二回目の荒れには雪に変るのであって、こういうように気温が下って行って初めて晴れ上るのである。
 降雪が夜中に止むと朝方には山の中腹に霧が立ち込めていることが多い。しかしこの霧は一部分に薄くかかっているだけで、夜が明け出すと非常に明るく感ずるからよくわかる。こんなときはたいてい丸一日晴天だから夜が明けてから様子をよく見定めて後出発しても遅くはない、で気をつけてこの機会を取り逃がさぬようにしなければならぬ。降雪が午後からやんで夜通し星が出ていれば、その間晴天が逃げて行くわけだから、翌日はできるだけ早く出発して午後には安全地帯に到着しているようにしないと荒天に逢うおそれがある。
 荒天になる前兆――晴天であった日の夕方にわかに生暖い風が吹き始めたかと思うと青空に刷毛で掃いたような雲ができる。また谷間に雲がボーッと浮いて、
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