ったので、ルックザックは品物を少し出さぬと入らなかった。身体もやっと辷り込めるくらいで、出るときには困った。破ったところは、翌日窓を掘り出して後、できるだけ完全に修繕した。小屋の内には不思議に雪が入っていなかった。蒲団は棒に釣りかけてあった。その上には蓙が冠せてあった。それを引き下して使った。あたたかいことは上ノ岳の小屋等とは比較にならない。それに上ノ岳の小屋のように二階へ上下する不便がないだけでも楽だった。ただスコップ等を、小屋の屋根あたりに柱を立ててそれに掛けておいてくれるとよいと思った。その後、小屋の主人に、壁板を破ったこと等を話したとき、それを頼んではおいたが。
 五日は終日雪が降った。六日は朝、霧が晴れてゆくのでよくなると思って出たが、何よりも空が曇っていたのが悪く、吹雪になってしまった。鷲羽岳の登りは雪のかたいところが多く、意外に時間がかかった。ワリモ岳は岩をさけて下を巻いたら楽だった。物凄い霧で方角もよくわからず、どんどん歩いているうち、赤岳も知らずに過ぎ黒岳の岩場にぶつかって驚いた。荷物を置いて黒岳の頂上へ往復する。一番初めの岩場がちょっと悪かった。ここは帰りに西側の雪の斜面を巻いてみて、雪の方が楽だと思った。それからは平凡な岩尾根だった。黒岳の頂上も過ぎ、もう一つ北の峰まで行った。そこに三角点があるから。けれども、例の毀れた柱が三本あるきりで、三角標石は見えなかった。それでもこんどの行程の最高峰だったので、ベルグ・ハイルを三唱した。引返してから、赤岳の東尾根をさがすのに相当迷った。やっと取付いたが、ここがまた、短いが、一番悪いところだった。東沢側は大したことはなかったが、ワリモ沢側は物凄かった。悪いところは荷物とスキーを別々にはこんだりして、随分時間を食った。全部尾根通しに東沢側ばかりを歩いた。悪場を過ぎてからも、上り下りが意外に悪く、かつ眺望がないため一層疲れた。風の非常に強いときなどは、スキーで東沢の谷へ降りて、ズーと下を巻いた方が楽に違いないと思った。野口五郎岳の三角標石は、完全に露出していた。頂上からちょっと縦走して行くと尾根にくぼんだところがある。そこでちょっと休むことにして、雪の孔を掘り、カッパを上に張って潜り込んだ。孔の中の温度を計ろうと思って寒暖計を出していたが、一度も計らずに紛失してしまった。孔の中はあたたかだったが、二時間ほどで
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