か、永代の傍で清住町というんだね、遊びに行くよ。番地は何番地だい?」
「清住町の二十四番地。吉田って聞きゃじき分るわ」
「吉田? 何だい、その吉田てえのは?」
「私の亭主の苗字《みょうじ》さ」と言って、女は無理に笑顔を作る。
「え※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」と男は思わず目を見張って顔を見つめたが、苦笑いをして、「笑談《じょうだん》だろう?」
「あら、本当だよ。去年の秋|嫁《かたづ》いて……金さんも知っておいでだろう、以前やっぱり佃《つくだ》にいた魚屋の吉新、吉田新造って……」
「吉田新造! 知ってるとも。じゃお光さん、本当かい?」
「はあ」と術なげに頷《うなず》く。
「ふむ!」とばかり、男は酔《え》いも何も醒《さ》め果ててしまったような顔をして、両手を組んで差し俯《うつむ》いたまま辞《ことば》もない。
女もしばらくは言い出づる辞もなく、ただ愁《つら》そうに首をば垂《た》れて、自分の膝《ひざ》の吹綿《ふきわた》を弄《いじ》っていたが、「ねえ金さん、お前さんもこれを聞いたら、さぞ気貧《きまず》い女だとお思いだろうが……何しろ阿父さんには死なれてしまうし、便りにしていたお前さんはさ
前へ
次へ
全65ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 風葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング