冠絶すると云ふものもあらむ。余は望む、南院の堤に、せめて茶亭あれ。茶亭に酒あらば、なほ更よし。河鹿わが爲に歌ひ、清流天上の凉味を傳ふ。山寺の一山、すべてこれ寺院堂塔のみにもあらず。すべてこれ奇巖怪石かと見れば、奇巖怪石のみにあらず。すべてこれ老松巨杉かと見れば、老松巨杉のみにもあらず。雲烟その間に搖曳す。小景とは云ふべからず。奇景とのみも云ふべからず。たゞ/″\天上の仙閣の趣とは、斯かるものかと思はるゝ也。時には、このやうなる野趣もあらむ。
[#天から2字下げ]牛洗ふ人いとけなし夏の川
[#地から1字上げ](明治四十二年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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