て許されよとて、海草を出す。子供は益※[#二の字点、1−2−22]よろこばず。あざむかれて、腹立だしくもあれど、取つて來ぬ前に錢をやりしが、こちらの失策とあきらめ、貝細工を擇ばせて買ひてやりしに、さまで喜べるさまも無し。
 鎌倉に行かば、喜ぶこともやとて、長谷の大觀音と大佛とを見せけるに、これでも喜べる樣はなし。この模樣ならば、八幡宮、鎌倉宮へ行きたりとて喜びはせざるべし。箱根へでもつれて行かば、或ひは喜ぶこともやとて、箱根にいたり、塔ノ澤の温泉宿に投ず。一度つれて浴湯にゆきしに勝手を覺えて、二兒自から相伴うてゆく。翌朝も、また食前に、我を待たずして行き、食後もまた行く。往いてのぞけば、二人にて、ちやぶ/\湯をかきまぜて、それで非常に喜べるさまなるに、われも始めて滿足す。何が一番面白かりしぞと問へば、湯をかきまぜるが、一番面白しといふ。そこには、夢想も及ばざりき。貝細工、鮑取り、大佛など、いろ/\考へしも、すべてみな子供の心を知らぬ失策なりし也。[#地から1字上げ](明治四十年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月25日作成
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