しがりて、之を掘る。みな其名を知らず。水晶草とでも名を附けようと云ひ居る處へ、十歳ばかりの村童一人ぶら/\來たる。これは何といふ草にかと問へば、笑つて名を言はず。そんなものを東京へ持つて行つたら、笑はれちやアといふ。思ふに、あの邊りには多くして、村童には珍らしくも何ともなかるべし[#「何ともなかるべし」は底本では「何となもかるべし」]。それがまた我兒には珍らしき也。
勝樂寺、横田諸村を經て、拜島驛にいたり、汽車に乘りて、羽村驛に下る。數町にして多摩川畔に出づ。こゝに壯大なる堰あり、羽村の堰といふ。實に玉川上水の入口也。東京に住むものはこの堰を知らざるべからずとて、茲に伴ひたる也。
驛に戻れば、午後六時、發車までには、一時間を餘す。腹もへりたるべしとて、一亭に入りて、腰かけて晩食す。肴一品の晩食なら、必ず三十錢以下なるべしと思ひしに、四十錢づゝにて、豫算がくるひたり。二兒には、新宿までの切符を買ひたり。余は漸く立川までの切符を買ふことを得たり。立川より東京までは、七八里、歩いてもよしと思ひしが、たかの知れた汽車賃と思ひかへして、大久保驛まで來て降る。驛長とは、相知る仲なれば、不足の賃金
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