致を添へたるが、櫻のみならず、楓を植ゑたるは、面白き思付き也。海晏寺今や楓の名所にあらずして、墓地也。瀧野川の楓のみにては物足らぬ心地す。他年、千川は櫻の名所よりも楓の名所とならむかと思はるゝ也。
千川上水を行き盡して、玉川上水に出づ。こゝは小金井の櫻の區域終りて、新武藏野の櫻の區域始まらむとする處也。櫻の長大なること、千川の比に非ず。十歳内外の小娘の群を離れて、十八九の娘の群に接するが如き心地す。上つて小金井の山櫻を見むか。下つて新武藏野の吉野櫻を見むか。花より團子、否、酒。掛茶屋に飛込みて、『きぬかつぎ』を肴に、瓢酒を飮む。日暮れむとす。微雨いたる。傘を持たず。瓢酒つくると共に、境驛へとて、濡れながら走る人あり、女のもてる傘にもぐり込む男もある中に、ひとりぶら/\、腹には酒、そのおかげにて、醉顏に微雨も亦惡しからず。駄句を吐いて曰く、
[#ここから2字下げ]
相傘や花の土手より停車場へ
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ](大正五年)
底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年7月9日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年8月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大町 桂月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング