歩す。四位の少將は、斯かる夜にも小町のもとに通ひけむ。これは戀ゆゑ、われは酒ゆゑ、ほれて通へば千里も一里、半里の路またゝく間に行きつくして、祝町につけば、夜すでに十時、快く醉ひを買ひて一夜の夢あたゝかに、宿醉に重き頭をもたげて欄によれば、海上の旭日、既に三竿に及べり。また飮み直して立ち出づ。都生れの女、水頭に送り來りて何となく打萎れたるは、都にかへる人あるにつけて、慣れし故郷のこひしきなるべし。昨日の水路をさかのぼる。梯子飮みの蝶二、獨り舟中にて飮み、獨り醉ひて獨り元氣なるにひきかへ、天隨悄然として溜息をもらせるは、歡樂きはまりて哀情多きにや。名殘は盡きざれど、水戸より汽車に乘りてかへりぬ。鐵道の近き第一公園の梅依々として清香を送るに、後髮引かるゝ心地のみせられぬ。[#地から1字上げ](明治四十四年)



底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
   1922(大正11)年7月9日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年11月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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