了す。千振《せんぶり》と稱する藥草も多し。鹽手といふ草、この山と日光山とのみにありて、春はその芽を食ふべしと聞く。氣候は東京に比すれば、十度以上の差あるべし。神野寺の老杉、雲を呼びて、夏あるを知らず。八月最中、鶯は時鳥と相和して啼く。神野寺の神木に棲める烏、その幾百羽なるを知らず。聞く、烏は百五十歳の壽を保つと。一群の中には數十代の遠祖もあれば、數十代の遠孫もあるべし。朝は四方へ飛び去り、夕べは四方より集まり來たる。寺にては日に唯※[#二の字点、1−2−22]一度、入相の鐘を撞く。烏の歸り來るは、恰も其鐘の鳴る頃也。鹿野山上の一觀たらずんばあらず。
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ゆふべ/\歸る烏にこと問はむ
下界にかはる事はなしやと
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[#地から1字上げ](大正二年)
底本:「桂月全集 第二卷 紀行一」興文社内桂月全集刊行會
1922(大正11)年7月9日発行
入力:H.YAM
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年11月28日作成
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