氣骨ある木也。氣骨ある人に非ずんば、梅と同化する能はざるべし。青年にして、梅を探る者あらば、われ高尚なる趣味を解するものとして、之を取る。老人にして梅を探る者あらば、必ずや意氣地なき老いぼれにはあらず』と陳べ立つれば、『そんな村夫子的御説法は眞ツ平なり』と冷かす。
『さらば、梅の名所を説かむ。先づ大和の月瀬が第一なるべし。熱海の梅園は、山腰に據り、清溪流れて、雅致あり。小田原城址の小峯山、水戸の第一第二の二公園にも、梅林あり。杉田は横濱より二里餘、小山を負ひ、海に面して、梅多し。本牧の三溪園にも梅林あり。鶴見の花月園にも梅あり。近く東京の南郊にては、大森驛畔の八景園、池上の曙樓、蒲田の梅屋敷、原村の立春梅などあり。小向の梅園は無くなれり。江東にては、向島の花屋敷、四木の吉野園に梅林あり。龜戸の臥龍梅は、惜しや、老木枯れたり。江東梅園も、木下川梅園も廢れたり。龜戸天神の梅林も無くなれり。西郊角筈の銀世界も無くなりたり。市内にては、湯島天神、芝公園、深川公園などにも梅林あるが、關東にては、青梅在の吉野村の梅を見ずんば、梅を説くの資格なかるべし。四面みな梅、多摩川其の中を貫きて、一村みな梅、
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