、三田村さん。あの回転ランプの重量《めかた》は、どれぐらいあります?」
「さあ、一トンはあるでしょう」
「一トン……一トンというと二百六十六貫強ですね。じゃああのランプをグルグル廻しながら、三十六メートルの円筒内を下って来る、あの原動力の重錘《おもり》というか分銅は、随分重いでしょうね?」
「そうですね、八十貫は充分ありましょう……大きな石臼《いしうす》みたいですよ……そいつがジリジリ下まで降り切ってしまうと、また捲《ま》き上げるんです」
「なるほど、最近捲き上げたのはいつですか?」
「昨日の午後です」
「じゃあ今夜は、分銅はまだ塔の上のほうにあったわけですね?」
「そうです」
「いやどうも有難う。あ、それから、この無電室でちょっと一服やらしてもらいますよ」
 そう言って東屋氏は、わたしを引っ張って無電室へ入ると、ドアをしめて、
「さあきみ、少しずつわかって来たぞ。まずはぼくの組み立てた仮説を聞いてくれたまえ」

       四

 東屋氏はそばの椅子《いす》に腰をおろすと、一服つけながら、話し始めた。
「まず、化け物にせよ人間にせよ、とにかくあの不敵な狼藉者《ろうぜきもの》が、この太い綱の一方の端をあの塔の頂きのランプ室から、玻璃窓の下の小さな通風孔をとおして、外の高い岩の上へたれておく。それから下へ降りて来て岩の上で例の岩片《いし》をたれている太い綱の端でしばっておいてふたたび塔上へ登る。そしてランプ室においてあるほうの綱の端を、旋回機の蓋《ふた》をあけて、円筒内の頂きへほとんど一杯に上っている分銅の把手《とって》へ、かたわな[#「かたわな」に傍点、底本では誤って「かたわ」に傍点]結びというかひっとき[#「ひっとき」に傍点]結びというか、とにかくそれで縛りつけ、そのちょっと引っ張ると解けるひっとき[#「ひっとき」に傍点]結びの短い一端へ、この細紐をこのとおりに結びつけて、さて旋回機のウィンチに捲きついているロープを、そうだ、あの手斧《ておの》で叩ッ切る。すると……」
「ああつまり釣瓶《つるべ》みたいだ」
 とわたしは思わず口を入れた。
「百貫近いその分銅のすさまじい重力を利用して、大石を暴れ込ましたというんですね。だが、そうすると、玻璃窓や機械のこわれる音とほとんど同時に、分銅の地響きがしなければなりませんが」
「もちろんその点も考えたよ」と東屋氏もつづける。
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