も、とにかくなんとかしなければなりませんので、しばらく迷ったあげく、三田村君と小使に、とりあえず試験所へご後援を願いに向わせたんです」
「いやそうですか。一向お役にも立ちませんが」と東屋氏が、われに帰ったように言った。「じゃあとにかく、こうしてもいられませんから……そうだ、風間さん、あなたは、現場の証拠品に手をつけないようにして、早速予備灯の支度をなさってはいかがですか。海は、真っ暗ですよ。……それから三田村さんは、アンテナを修繕して、少しも早く通信を始めて下さい。わたし達もお手伝いしましょう」
 そこで二人はしばらく戸惑うようにしていたが、やがて波の音にせき[#「せき」に傍点]立てられるように、そわそわと降りて行った。そしてわたし達は、それぞれにはげしい興奮を押えながら、あらためて取り散らされた室内を呆然《ぼうぜん》と見廻すのだった。
 ところがここで、はからずもわたしは重大な発見をした。それは一丁のなまくらな手斧《ておの》を、室内のうす暗い片隅から拾い上げたのだ。しかもそのにぶい刃先には、なんと赤黒い血がこびりついていた。
 この発見で顔色を変えた東屋氏は、早速かがみ込んで、あらためてしげしげと友田看守の死体を眺め始めた。が、間もなく死人の頭の右耳の上に、この手斧でなぐりつけたらしい新しい致命傷をみつけて立ち上った。
「これアきみ、傷口の血のかたまり工合から見ても、この傷のほうが、先に加えられたほんとうの致命傷らしいね……すると、あの石の飛び込んだときには、もう友田看守は死んでいたんだ……だが、そうすると、あの石の飛び込んだ音の後から聞いたという呻《うめ》き声は、死人のものなどではないことになる……これアだいぶん事情が違ってきた」
「じゃあやっぱりあれも、幽霊の唸《うな》り声?」
 とわたしは思わず声を出した。
 けれども東屋氏は、それには答えないでしきりに苦吟しつづけていたが、やがて語調をあらためて言った。
「ねえきみ……ぼくはまず、なんと言っても、この奇怪な暴れ石の出所のほうが先決問題だと思うよ……ね、この岩片《いし》には、この辺の海岸にはいくらでもいるフジツボやアマガイのような岩礁《がんしょう》生物が、少しもついていないところをみると、どうしてもこいつは、満潮線以下にあったものではないね。といっても、このしめり工合《ぐあい》じゃあ、まさか山の中のものじゃな
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