だね」喬介が云った。「この事件で、あの男の昇給は間違いなしだよ」
「じゃあもう、真犯人が判ったんですか?」
「勿論さ。昨晩君の話を聞いた時から、もう僕には大体判っていた。……なにも驚くことはないよ。ね、君。事情は大変簡単じゃあないか。……つまり、あの一本道で、君と郵便屋が、こちらから二人の犯人を追って行く。差配人が向うから来る。ところが犯人がいない。そこで、たったひとつの抜道である秋森家の勝手口を覗きこむ。すると、犯人の足跡がある。ところがだ。その足跡が、犯行よりずっと後からつけられたものであった、としたなら、一体どうなるかね?……」
「……犯人が、その時、勝手口から這入らなかったことになりますが……」
「そうだよ。そして、塀の外には、君達三人の男がいたんだ。……判るだろう?」
「……判るようで……判りません……」
「じれったいね……その塀の外に、犯人がいたんだよ……つまり、君達三人の中に、犯人がいたんだ!」
 ――冗談じゃあない! 雄太郎君は思わず声を上げようとした。が、喬介は押かぶせるように、
「君達三人の中で、犯行後チンドン屋が勝手口へビラを投げ込んで通りかかった時から、そのチンドン屋の知らせで蜂須賀巡査が馳けつけて足跡を発見するまでの間に、勝手口から邸内へ這入った男があったろう?……そいつが犯人だ」
「じゃあ、戸川差配人が犯人?」
「そうだ。ところで、戸川は何分位邸内にいたかね?」
「約五分? 位です。でも、差配人は、カバンを置きがてら急を知らせに……」
「そのカバンだよ。今日僕が、蜂須賀君と一緒に調べたのは。その中に、白い浴衣と黒い兵児帯が一人前這入っていたんだ!……つまり戸川は、皆んな午睡《ひるね》の最中に、電話で自分の女房を呼び出すと、君達証人の前で予め双生児《ふたご》の指紋をつけて置いた兇器で刺殺《さしころ》し、君達の目の届かない曲角の向うで、洋服の上へ着ていた浴衣を脱いでカバンへ突込むと、そ奴《いつ》を邸内へ置きにいった序《ついで》に、大急ぎで庭下駄の詭計《トリック》を弄し、女中達を叩き起したと云う寸法だ。……なんの事はない。秋森家の双生児《ふたご》と殺された女との醜関係から、警察が双生児《ふたご》に持たせた犯罪の痴情的動機を、僕は逆にそうして極めて自然に、女の夫である戸川弥市に持たせたまでさ」
「じゃあいったい、もう一人の共犯者は?」
「共犯? 
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