めにつけられた、恐ろしい詭計《トリック》なんですよ。真犯人は、誰だかまだ判らないが、兎に角、あの秋森家の双生児《ふたご》は、決して真犯人ではないね!」
 そしてアパートを出ながら、驚いている雄太郎君には構わずに、急に憂鬱になりながら、
「ところが、署では、僕の意見など、てんで問題にされないですよ……証人はあるし、証拠は挙がっているし、それになによりも悪いことには、その後取調べの結果、あの双生児《ふたご》の二人と殺された家政婦との間に、醜関係のあった事がばれ[#「ばれ」に傍点]たんです。一寸驚いたですね。殺された女が、報酬を受けてそんな関係を持っていたのか、それとも、女自身の物好きな慾情から結ばれたものか、いずれにしても、その醜関係が有力な犯罪の動機にされたんです。そこへもって来て、ほら、昨晩のあれでしょう。全く腐っちまうね……だが僕は、こんなところで行詰りたくない」
 やがて秋森家の門前へつくと、蜂須賀巡査はポケットから大きな巻尺を取り出し、雄太郎君に手伝わして、昨晩のあの石塀の奇蹟に就いての最も正確な測量を始めた。けれどもいくら試みても、ポストの処から、被害者の倒れていた地点は、緩やかにカーブしている石塀に隠れて見えない。同様に、被害者の倒れていた処からも、ポストは見えない。蜂須賀巡査は、とうとう巻尺を投げ出して云った。
「吉田君。もう一度だけ訊くが、これが最後だから、どうか僕を助けると思って、頼むから正直に云って呉れ給え。ね。君は確かに、あの郵便屋と二人で、このポストの直ぐ側に立っていて、犯行の現場を見たんだね?」
 雄太郎君は、この執拗きわまる蜂須賀巡査の質問に、思わずカッとなったが、虫をころして昨晩の通り返事をした。
「ふん、やっぱりそうか……いや、疑って済まなかったね」蜂須賀巡査は巻尺を仕舞いながら云った。「すると、どうしてもこの長い石塀は、あの時より、少くとも三尺は道路の方へ飛び出している事になる……全く、馬鹿げた事だ……いや、どうも有難う」と雄太郎君に会釈しながら、「だが、兎に角こ奴《いつ》は、ひょっとすると証人の責任問題になるかも知れませんから、その点心得ていて下さい」
 そう云って蜂須賀巡査は、いささか気色ばんで帰って行った。
 ――困ったことになったぞ。と雄太郎君は溜息をつきながら、――ひょっとすると、俺のほうが間違っていたかな? いやいや、断じ
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